約束の大空 3 ※ 約束の大空1&2の続編。第四幕~(本編全話 完結)
「そう思ったお二人を、何を考えられたんですか?」
花桜は静かな声で、二人に問いかける。
花桜の姿に、在りし日の山南さんが重なっていくみたいだった。
「会津だよ」
「そう、会津。今、左之が話した通りだ。
会津には、容保公がいらっしゃる。
それに会津には戦いを知る兵(つわもの)たちがいる」
「そうだ。
あの京都の鳥羽伏見を戦い抜いた頼もしい奴らがいる。
寄せ集めじゃない。
だからこそ、オレたちは会津に向かわないといけない。
そんな決断になった。
その後は、必要なものは軍資金だ。
新選組としておおっぴらに、今の世の中動けるわけじゃない。
オレは新八と相談して、松本先生の元へと向かった」
「松本良順先生?」
「あぁ。
俺たちのことを知る、その人の元へと交渉に走った左之は、
軍資金を借りて靖兵隊(せいへいたい)を結成した。
その靖兵隊のリーダーとして近藤さんにたってもらって、
会津へと合流しようおもったんだ」
「なのに、あのバカは、聞く耳をもちやしない」
永倉さんと原田さんが吐き出した言葉は、
昔の嘉賀舞としての記憶にも知識にも存在しない歴史。
だけど……見事、すれ違いじゃない?
「そうだったんですね。
お二人のお気持ち、私はしっかりと受け止めました。
離れていても、新選組の絆は消えない。
私はそう思ってます。
ちゃんと、天国で山南さんも永倉さんと原田さんと一緒に、
戦ってくれると思います。
引き留めてしまってすいませんでした」
花桜はそう言って、二人の方を向くと深々と頭を下げた。
「永倉さん、原田さん。
俺たちも会津を目指す。
その気持ちに変わりはない。
だから二人は一足先に、容保公の傍へ行ってくれ」
静かに会話に聞き入っていた斎藤さんは、
そうやって言葉を紡ぎだすと、ゆっくりと部屋から出て行った。
「お二人とも、ご武運を」
斎藤さんが出て行った後、
スクっと立ち上がった永倉さんと原田に向かって、
正座のまま花桜はそう言って、再び頭を下げた。
私も花桜の隣で、同じように頭を下げる。
「山波君、加賀君。
君たちも同じ志を持つもの。
頭を下げるなんてやめて欲しい」
永倉さんはそう言うと私と花桜の肩を抱くようにして、
立ち上がらせる。
「では、一足先に会津に参る。
ごめん」
そう言って一礼する永倉さん。
「会津で待ってる」
そう言って、永倉さんと共に部屋を出ていく原田さん。
私たち二人のみが残された一室。
シーンとした静けさだけがやけに気になる。