Heroine

アフタヌ-ン・カフェ


 差し込む陽射しが眩しい。
 
 窓の外に見えるオフィス街からは、無音の喧騒だけが聞こえてくる。
 
 いつものカフェで待ち合わせ。もう三十分は待っているのに、あなたはまだ現れない。
 私はすっかり温くなったコーヒーを啜りながら、通りを行き交う人混みに、あなたの姿を探す。


 ビル群の隙間に覗く、透明な青空――。 
 
 隣のテーブルでは、若い恋人達が何やら言い争っている。
 
 そういえばこの店で、私たちも何度か喧嘩したね。
 そのほとんどは、理由も思い出せないほど些細なものだったけど。
 

 いつも待たされるのは、私の方だった――。
 
 冷めたコーヒーを眺めながら、そんな事を考える。

「すみません、コーヒー、お代わりお願いします」

 あと十分待っても来なかったら、帰ろう――。
 深くため息をついて、腕時計に目をやる。
 
 店のマスターが、熱いコーヒーを注ぎ足してくれた。
 私は彼に微笑み返して、視線を窓の外へ戻す。


 通りの向こうに、背の高いあなたの姿が見えた――。

 私を見つけて、あなたが微笑む。

「コーヒーは熱くなきゃね」

 声が弾むのが自分でもわかる――。
 
 マスターはにっこり微笑んでくれた。

 
 こんな晴れた日の午後にはいつものようにこのカフェで、二人で熱いコーヒーを。


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