Heroine

母性本能

 窓の外には澄み切った青空が広がっている。
 それなのに病室というのは、何故こんなにもひんやりとした空気が染み込んでいるのだろう。
 横になっているだけでまだ傷口が痛い。

 
 ほんの数時間前、私は自分が女である所以の器官を切り捨てた。


 子宮全摘出――。


 腹部に走る痛みの理由はそれだ。
 成人女性の二十パーセント以上にあるといわれる子宮筋腫。

 全摘出手術と腫瘍だけを取り除く筋腫核手術があるが、私の子宮の内側には、握りこぶし程の大きさの腫瘍ができていたらしい。
 子宮ごと取り除いてしまえば再発の危険性は一切ない。私は医師と相談し、結局、摘出手術に同意した。

 結婚当初は当然、子供を望んでいた。でも、授からなかった。

 子供を産んでこそ、一人前の女だなんて言う先輩女性もいるが、子供がいなくても母性を発揮することはできる。
 子宮がなくなったからって、女でなくなるわけじゃない。

 それでもやはり、全摘出というのには散々悩んだ。
  

 空の青さが、やけに眩しい――。


 私はベッドに横になったまま、窓の外を眺める。

 廊下から、赤ん坊の泣き声が聞こえてきた。
 きっと新生児室が近いせいだろう。

 力強い、大きな泣き声。
 小さな、可愛い命。
 
 その泣き声が優しく耳に響いて、胸の奥にあたたかな感情が広がる。
 自然とこぼれた涙が頬をつたった。

 
 窓の外には、どこまでも青く澄んだ空が広がっている。



※参考資料:女性の医学/池下育子 著

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