サイハテの愛の城。
今までの行為に全く興味を示さなかった紫花が、唯一興味を示したのは屋上。
自分には無反応だったのに、そう思ったのだろうか。
つかつかと紫花の席に歩みを進め、肩に力が入り鬼のような形相をしている奈々未。
それでも尚、無言を貫く紫花と、痺れを切らして手をあげようとする醜い女。
それはまずいって。ざわざわとそんな言葉が聞こえる。
じゃあ止めればいいのに。勿論俺はしないけど。
手を振りかぶり、紫花の頬を叩こうとした瞬間、前の扉が一際大きな音を立てて開いた。
「おはよーう。ほら、中川、篠原、席について。高橋はまた遅刻?」
先生が入ってきた瞬間から、罵声が止む。
聞こえていたはずなのに。
目に見える形で痕跡が残っているのに。
女子達の汚い声は、きっと届いたはずなのに。
知らないふりをするのは、なぜだろう?
「香坂ー、どうした?集中しろー。」
きっと今は点呼をしているんだ。ぼんやりとする俺に、先生は話しかける。
「あッ、すいません…」
咄嗟の返事に、先生は呆れたように笑いかけ、クラスメイトもクスクスと笑う。
他のクラスと何ら変わらない空気。
他の学校では当たり前の風景。
当たり前のことを当たり前に。
じゃあ、今の俺たちは?
________これが、一週間前から、俺たちの当たり前になった。