私の上司はご近所さん
「結衣!」
「ん? なに?」
「変質者、捕まったって!」
私に連絡をしてきたのは、地元警察だった。その内容を興奮気味に結衣に伝える。
「百花、よかったね!」
「うん」
これで夜遅くなっても安心だ。
ホッと胸をなで下ろしたのも束の間、ふとあることに気づく。
変質者が捕まったのだから、もう部長と一緒に帰る必要はなくなった、と……。
「お先に失礼します」
「お疲れさまでした」
ひとり、またひとり、と広報部のメンバーがオフィスから去って行き、残業しているのは私と部長のふたりきりになってしまった。部長の様子をチラリとうかがえば、真剣な表情で書類に目を通している。
部長の仕事が急ぎなのか、そうでないのか、判断がつかない。でももし、私が残業を終えるのを待っているのだとしたら?
作業の手を止めると、部長のもとに向かった。
「部長。昼間、警察から変質者が捕まったと連絡がありました」
「へえ、そうか。それはよかった」
書類から視線を上げた部長の顔に、柔らかい笑みが浮かんだ。部長が微笑んでいる姿を見ると心が騒ぐ。もっと彼の笑顔を見たいと思ってしまう。けれどこれ以上、いつまでも部長に甘えてはいけないと、自分に言い聞かせた。