私の上司はご近所さん
「百花って単純だよなぁ」
翔ちゃんはゲラゲラと笑いながら、私の髪の毛をクシャクシャとかき乱す。
「ちょっと、やめてよっ!」
今日は大事なイベントの日。大勢の取引先の対応をしなければならない。だからいつもより丁寧に髪型を整えた。それなのに、こんなことされたら、たまったもんじゃない。
頭の上で動き続けている翔ちゃんの手を払いのけようと抵抗していると、横から爽やかな声が聞こえてきた。
「おはよう」
「あ、部長! おはようございます」
今日のイベントは広報部長である彼も参加する。
部長が登場してくれたおかげで、私をからかっておもしろがっていた翔ちゃんの動きがピタリと止まった。
「矢野くんもおはよう」
「……おはようございます」
ついさっきまで大笑いしていたのに、部長に挨拶を返した翔ちゃんは、いかにもおもしろくないといったような表情を浮かべている。
いったい、どうしたんだろう?
仏頂面の翔ちゃんを気にしつつ、彼からもらったパンを自慢するために、袋の中身を部長に見せた。
「部長、翔ちゃんにメロンパンもらったんです」
「へえ、おいしそうだ」
袋の中を覗いた部長がニコリと微笑む。