私の上司はご近所さん
部長の言う通り、私と翔ちゃんは仲がいい方だと思う。けれど過去には些細なことでケンカをして、一週間口を利かなかったこともある。
あのときは、どっちが先に謝ったんだっけ?
昔のことを思い出す余裕ができたのは、少し頭が冷えたから。
イベントが終わったら、感情に任せて翔ちゃんに暴言を吐いてしまったことを謝ろう。
そう思ったとき、ブルブルッとスマホが震えた。バッグからスマホを取り出すと、そこには【ゴメン】の三文字が表示されていた。
翔ちゃんから届いたラインの短い文字を見て思い出す。一週間口を利かなかったとき、先に謝ったのは翔ちゃんの方だったと……。
【私もバカって言ってゴメンね】と文字を打ち込むと、送信する。
「その様子だと矢野くんと仲直りできたみたいだな」
ケンカをしても先に折れてくれる翔ちゃんの優しさがうれしくて、口もとが勝手に緩んでしまった。きっと部長はニヤけている私の顔を見て、翔ちゃんと仲直りしたと思ったのだろう。
「はい。部長、今日のイベントがんばりましょうね」
「ああ。そうだな」
焼き立てのメロンパンをまたもらえたし、翔ちゃんとすぐに仲直りできた。今日はきっといい日になる。
ついさっきまでは最悪な日になると思っていたのに、単純な自分の性格をおかしく思いながらベンチから立ち上がった。