私の上司はご近所さん
以前、取材してもらった工場見学の記事は社内でもとても評判がよかったうえに、東京プレイスを見たという読者からの問い合わせも増えた。山崎さんには何度お礼を言っても足りないくらいだ。
「それで園田さんに話があるんですけど、今少しだけ時間いいですか?」
「はい、もちろん」
もしかしたら今回も特集を組んでもらえるのかもしれない。
そんな期待に心躍らせながら、歩き出した山崎さんの後を追った。
「園田さん、仕事、忙しいですか?」
「はい、おかげさまで。でも夏ショコラも無事に発売されましたし、この先は少しは落ち着きそうです」
イベントが終わったら報告書を期限までに提出しなければならない。けれど、残業からはようやく解放されそうだ。
定時に上がって家でまったりと過ごす時間を待ち遠しく思いながら足を進めていると、直営店の前を通り過ぎた角で山崎さんが止まった。
「そうですか。それなら来週、俺とデートしてくれませんか?」
「えっ? デート?」
「はい」
山崎さんからデートに誘われたのは、今回で二度目。前回はたしか四月で電話応対中だったはずだ。
「山崎さん、また冗談を言って私をからかうつもりですね?」
あのときはデートの誘いを真に受けて、かなり焦ってしまった。でも同じ手に引っかかるほど私は単純じゃないと、大袈裟に胸を張ってみせる。