私の上司はご近所さん
「冗談じゃないですよ。あのときは園田さんが忙しそうだったから遠慮しただけです。でも、これからは落ち着きそうなんでしょ?」
私を真っ直ぐに見つめる山崎さんの真剣なまなざしと、キュッと締まった口もとを目にしただけで、彼が冗談を言っているのではないとすぐにわかった。
なんの取り柄もない私をデートに誘ってくれたことはうれしい。けれど私は相思相愛のふたりが出かけることをデートだと思っている。
私が好きなのは誰?と自問自答してみる。すると頭の中に、優しげな笑みを浮かべる部長の姿が浮かび上がった。
ああ、そうか。部長の笑顔をもっと見つめていたいと思ったのも、鼓動が早鐘を打ったのも、部長のことが好きだからなんだ……。
心の中で芽生えた部長への思いが、スッと胸に沁み込んでいった。
「ごめんなさい。私……好きな人がいるんです」
山崎さんの誘いは受けられない。頭を下げる。
「その人とはつき合っているの?」
「いいえ。私の片思いです」
部長への思いは一方通行。だって部長には彼女がいるのだから……。
「片思いの恋なんか忘れて、俺とつき合えばつらい思いをせずに済むよ」
うつむいている私の耳に、山崎さんの優しい声が届く。
何度か一緒に仕事をしたことがあるから知っている。山崎さんは、誠実で紳士的な人だと……。