私の上司はご近所さん
だから、このまま瞳を閉じて山崎さんの甘い言葉を受け入れれば、私はきっと幸せになれる。でも私は部長が好き。山崎さんとはつき合えない。
「山崎さん、ごめんなさい」
足を後退させると、もう一度頭を下げた。
私は過去に一度だけ、告白したことがある。けれど『俺、彼女いるから』とアッサリと翔ちゃんにフラれてしまった。つらくて悲しくて、ベッドに体を投げ出すと涙が枯れるまで泣いた。
しかし今日私は、断る方もつらくて悲しいという事実を初めて知った。私が泣くのは筋違いだとわかっているから、瞳から涙がこぼれ落ちないように歯を食いしばる。
「わかりました。でも片思いの恋に区切りをつけたくなったら、いつでも俺を頼ってください」
山崎さんの口調がいつものような敬語に戻ったのは、この話はこれで終わりだというサイン。私がこれ以上困らないように気を使ってくれる山崎さんに返す言葉が思いつかない。下を向いて黙り込んでいると「それじゃあ」という山崎さんの声が聞こえた。
「山崎さん! あの……」
広報部にとって、星出版との繋がりが途切れてしまうのは困る。だからと言って山崎さんと個人的につき合うことはできないけれど、仕事上のつき合いは今まで通りでお願いしますなどと、こちらの都合のいいような言葉を並べ立てるのは抵抗がある。