私の上司はご近所さん
意味ありげなことを言って私をからかうなんて、やっぱり部長は意地悪だ。
「……もう」
何度も部長にからかわれる自分が情けない。小さく頬を膨らませると、部長がカタンとイスから立ち上がった。
「ちょっとつき合ってくれ」
「えっ?」
大股で移動してきた部長に手首を掴まれる。
これからなにが起きようとしているのか予想がつかない。クエスチョンマークをまき散らしながら、足を進める部長の後をついて行った。
部長に手を引かれてたどり着いたのは、広報部と同じフロアにある休憩室。自動販売機の前で私の手首を離した部長は、ジャケットの内ポケットから財布を取り出す。
「なにがいい?」
部長は詳しい説明をしてくれない。でも自動販売機の前で財布を出して『なにがいい?』と聞かれたら、飲み物をごちそうしてくれると考えるのが自然だ。
「えっと……それじゃあ、オレンジジュースで」
今日は休憩時間にカフェオレを飲んだだけ。喉に渇きを感じていた私は、遠慮なく飲みたいものを伝えた。
「了解」
部長は千円札を自動販売機に入れると、オレンジジュースとブラックコーヒーのボタンを押す。そしてゴトンと音を立てて落ちてきた飲み物を取り出した。
「どうぞ」
「ありがとうございます」
差し出されたオレンジジュースを受け取ると、部長にお礼を告げる。