私の上司はご近所さん
最近、部長と交わした会話といえば挨拶くらい。イベント前に一緒に帰って、他愛もない話をしていた日々が懐かしく感じた。
でも、これでいいのかもしれない。部長と距離ができれば、好きだという気持ちも徐々に薄れていくはずだから……。
部長から視線を外して無理やり自分を納得させると、八階の書庫に向かった。
八階に到着したエレベーターから降りると書庫に向かう。備品倉庫と書庫があるだけの八階は人の姿もなく、どことなく寂しい。
とっとと片づけて、早く広報部に戻ろう。
そう思いながら書庫のドアを開けた。すると……。
「ダメ……ぁん……」
会社には似つかわしくない声が耳に届く。
あ、これって……。
経験がない私でもこんなに色っぽい声を聞けば、書庫の中でなにが行われているのか予想がついた。
「ちっともダメじゃないくせに」
「もう、意地悪……」
クスクスと笑い合う男女の声が書庫に響く。私がドアを開けたことにも気づかないほど、ふたりは熱中しているようだ。
仕事をサボって社内でイチャイチャするとは、まったくけしからんっ!と思いつつも、注意できるほどの度胸はない。
音を立てないように静かにドアを閉めると、ゆっくりと後ずさりした。すると突然、背後から声をかけられる。
「どうした?」
振り返った先にいたのは、まさかの部長。ついさっきまで広報部にいたはずなのに、どうしてこんな場所に?と思ってしまう。