私の上司はご近所さん
「部長も書庫に用ですか?」
「ん? まあ、そんなところだ。それより書類を保管するんじゃなかったのか?」
部長は台車に積んだままの書類を見逃さない。
「あ、えっと……保管は明日でもいいかな~と思いまして……」
書庫で社員がコトの真っ最中だとは、さすがに言いにくい。言葉を濁すと台車の向きを変えて、エレベーターに向かおうとした。しかし部長に台車の取手を力強く掴まれてしまう。
「今日できることを、どうしてあと伸ばしにするんだ?」
「それは……」
言葉に詰まってしまったのは、いい言い訳が浮かばなかったから。部長の目を真っ直ぐに見ることができない。
「ふたりでやれば早く終わる。さあ行こう」
部長は台車をグイグイと押しながら、書庫に向かって進んで行ってしまった。隙をつかれた私は慌てて部長の後を追う。
どうしよう……。
自分はなにも悪くない。それなのにオロオロしてしまうのは、書庫で行われているコトが気まずすぎるせいだ。
「部長っ!」
書庫に続く廊下を猛ダッシュすると、部長の腕を背後からグイッと掴む。
「どうした?」
「あの……その……」
「ん?」
部長を足止めすることには成功した。しかし事情をうまく説明できない。