私の上司はご近所さん
注意を受けた方も、注意をした方も、顔を合わせるのは気まずい。お互いの姿が見えない場所に移動するという配慮をした部長に感心してしまった。
「しばらくの間、ひとりで書庫に来るのは禁止だ」
体の前で両腕を組んだ部長が、思いがけない指示を出す。
「えっ? どうしてですか?」
「どうしてって、さっきみたいな場面にまた遭遇したいのか?」
「それは絶対に嫌ですっ!」
こんな気まずい思いをするのは、もうコリゴリだ。
首を左右にブルンブルンと大きく振った。
「書類を保管するときは俺に声をかけること。いいね?」
上司なのに偉ぶることなく、保管作業まで手伝うと言ってくれるのはありがたい。けれど常に忙しそうな部長に、こんな雑用を手助けしてもらうわけにはいかない。
「でもっ!」
「これは部長命令だ」
すぐに反論したものの、言葉を遮られてしまった。部長命令と言われれば、もう逆らうことはできない。
「……はい。わかりました」
渋々承諾すると、部長がクスクスと笑い出す。
「素直でよろしい」
「……っ!」
日の当たらない廊下にいるというのに、久しぶりに見た部長の笑顔は太陽のように眩しい。鼓動がドキリと跳ね上がった。
「こうやってゆっくり話すのは久しぶりだな」
「そうですね」
「近いうちに、またサバの味噌煮定食を食べに行くよ」
「はい! お待ちしています」
“いつ”と約束したわけじゃないのに、部長がウチに来てくれる日が待ち遠しく感じた。