私の上司はご近所さん

オフィスに部長とふたりきりになるのはやはり久しぶりで、なんとなく照れくさい。

「部長、ありがとうございました」

ペコリと頭を下げると、保管作業を手伝ってくれた部長に改めてお礼を伝えた。

「どういたしまして」

私の頭の上に、部長の手がポンとのる。さりげなく私を労ってくれる部長の優しさはうれしい。でも彼に恋している私にとって、直に感じる部長の温もりは心臓に悪かった。

「ぶ、部長は今日も残業ですか?」

上がった心拍数を落ち着かせるために、仕事の話題を部長に振る。

「いや。今日は残業ナシだ。一緒に帰ろうか」

「はい!」

思いがけない部長の誘いがうれしくて、大きな声で返事をした。

『一緒に帰ろう』と言ってくれるのは、私と部長がご近所さんだから。そこに深い意味はないとわかっていても、気分が勝手に上がってしまう。

ワクワクと胸を躍らせて自分のデスクに戻ると、帰り支度を整える。しかし、そこでハッと我に返った。

部長と一緒に帰れるのなら、もっとかわいい服を着てくればよかった、と……。

白いシャツとブラックのパンツという、地味な服装を選んだことを今さら後悔しても遅いというのは、わかっている。でも部長の前では、少しでもかわいくいたいと思ってしまうのだ。

これが恋してるってことなんだ……。

手ぐしで髪型を整えつつ部長への思いを再認識していると、声をかけられる。

「お待たせ」

「い、いえ」

「それじゃあ、行こうか」

「はい」

まるでデートの待ち合わせみたいな状況に胸を弾ませながら、広報部を後にする部長について行った。

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