私の上司はご近所さん
雨の帰宅
一階に到着したエレベーターから降りると、エントランスホールを横切る。すると、ポツポツと雨が降り落ちている外の光景が見えた。
今朝、テレビで見た天気予報は曇りだった。だから傘は持ってこなかったし、置き傘もない。傘がなければ手ぐしで整えたばかりの髪の毛も、雨に濡れて乱れてしまう。
小走りをすると自動ドアを通り、正面玄関の前でため息交じりに暗い雨空を恨めしげに見つめた。
「降ってるな」
「はい」
部長は私の背後から身を乗り出すと、空を見上げる。肩先に部長の体が触れてしまうほど、その距離は近い。
部長を意識してしまった私の鼓動が、トクンと跳ね上がった。
「その様子だと、傘を持っていないようだな」
「……はい」
いつまでも正面玄関から外に出ないのは雨に濡れたくないから。そんな私の様子を見た部長が小さく笑う。
「どうぞ」
「えっ?」
先に外へ出た部長が折り畳み傘をパンッと開く。そして私に向き直ると、スッと傘を差し出してくれた。
でも、どうぞって……。
雨に濡れずに済むのはありがたいけれど、部長と相合傘はさすがに恥ずかしい。