私の上司はご近所さん

傘にポツポツと雨があたる音を聞きながら、他愛もない話を部長と交わす。すると歩道を歩いている私たちの横を、一台の車が通り過ぎた。

----パシャリ。

車が跳ね上げた水しぶきで、車道側を歩いていた部長の足もとが濡れてしまう。

「部長! 大丈夫ですか?」

「ああ。ヤラれたな」

部長はそう言いながら、苦笑いした。

「今、ハンカチを出します」

早く拭かないとシミになっちゃう……。

焦りながらバッグからハンカチを取り出そうとすると、その手を部長に止められる。

「いいから。駅に急ごう」

「でもっ!」

「ちょうど、クリーニングに出そうと思っていたんだ。気にしなくていい」

まだ雨は降り続いているし、また車が通って水しぶきを跳ね上げるかもしれない。こんな場所で言い合っても時間の無駄だ。

「……はい」

コクリとうなずくと、駅に向かって足を進める。

スーツをクリーニングに出すというのは、私を納得させるための口実に違いないし、傘に入った私の右側にさりげなく回り込んだのは、自分が車道側を歩くためだ……。

しとしとと雨が降り続く中、部長の気遣いに感謝した。

< 130 / 200 >

この作品をシェア

pagetop