私の上司はご近所さん
傘にポツポツと雨があたる音を聞きながら、他愛もない話を部長と交わす。すると歩道を歩いている私たちの横を、一台の車が通り過ぎた。
----パシャリ。
車が跳ね上げた水しぶきで、車道側を歩いていた部長の足もとが濡れてしまう。
「部長! 大丈夫ですか?」
「ああ。ヤラれたな」
部長はそう言いながら、苦笑いした。
「今、ハンカチを出します」
早く拭かないとシミになっちゃう……。
焦りながらバッグからハンカチを取り出そうとすると、その手を部長に止められる。
「いいから。駅に急ごう」
「でもっ!」
「ちょうど、クリーニングに出そうと思っていたんだ。気にしなくていい」
まだ雨は降り続いているし、また車が通って水しぶきを跳ね上げるかもしれない。こんな場所で言い合っても時間の無駄だ。
「……はい」
コクリとうなずくと、駅に向かって足を進める。
スーツをクリーニングに出すというのは、私を納得させるための口実に違いないし、傘に入った私の右側にさりげなく回り込んだのは、自分が車道側を歩くためだ……。
しとしとと雨が降り続く中、部長の気遣いに感謝した。