私の上司はご近所さん

部長のおかげで雨に濡れることなく、品川駅にたどり着くことができた。しかし彼の足もとは汚れたままだし、肩先も濡れてしまっている。

私が濡れないように、傘を傾けてくれていたんだ……。

「部長、ありがとうございました」

感謝しながらお礼を告げると、バッグからハンカチを取り出す。そして部長の肩先をハンカチで拭った。

傘を折り畳んでいた部長が顔を上げると目が合う。その近い距離が恥ずかしい。慌てて部長から視線を逸らすと、濡れてしまった肩先をハンカチで拭い続けた。しかし、なんの前触れもなく、部長に手を握られる。

「もうすぐ電車が来る。急ごう」

改札の奥に設置されている電光掲示板を見れば、たしかに発車時刻が迫っていた。

「はい」

部長に手を引かれながら定期券をかざすと自動改札機を通る。ラッシュの時間帯のせいで構内には多くの人が行き交っている。

----ドンッ!

「あっ、すみません」

見知らぬ人と肩がぶつかり咄嗟に謝ったものの、その反動で部長に繋がれていた手が離れてしまった。

足を止めると辺りをぐるりと見回す。けれど部長の姿はどこにもない。

どうしよう……。この人ごみの中、どうやって部長を探せばいいの?

キョロキョロと視線をさまよわせていると、横から唐突に声をかけられた。

< 131 / 200 >

この作品をシェア

pagetop