私の上司はご近所さん
「やっと見つけた」
私の前に姿を現したのは部長。彼の肩は激しく上下していて、しかも息が切れている。もしかして部長は、はぐれてしまった私を探し回っていたのかもしれない。
「部長、あの……」
迷惑かけてしまったことを謝ろうとすると、部長に言葉を遮られた。
「まだ間に合そうだ。行こう」
「あっ」
私が返事をするよりも早く、再び手を握られる。彼に手を引かれてホームに続く階段を駆け下りると、タイミングよく電車が到着した。
電車を待たずに済んだのはよかったけれど、ラッシュの車内はとても混雑している。後ろから乗り込んでくる人にグイグイと背中を押されて、体がフラついてしまった。
「大丈夫か?」
「はい」
よろける私を心配してくれた部長にコクリとうなずく。けれど電車に乗り込んでくる人波は途切れない。後ろからさらに背中を押されてしまい、前のめりになった私の体が向かい合わせになった部長の胸板にトンとぶつかってしまった。
「す、すみません」
「いや」
部長から離れるために足を後退させようとしても、混雑したこの状況では身動きが取れなかった。