私の上司はご近所さん
部長と体が密着してしまうなんて恥ずかしい。いたたまれなくなった私がうつむくと、電車がガタンと発車した。
「混雑しているな」
「そうですね」
頭の上から降り落ちてくる部長の声は、いたって冷静。私と体が触れ合っていることなど、なんとも思っていないらしい。
「こんなことなら、次の電車に乗ればよかったな」
「次の電車もきっと混んでいると思いますよ」
「それもそうだな」
小さな声で部長と会話を交わしていると、光が丘駅に到着するアナウンスが流れた。私と部長が降りるのは、ふたつ先のさつき台駅だ。
電車が速度を落とすと慣性の法則により、体が斜めになる。反射的に部長のジャケットを握ってしまい、慌てて謝った。
「すみません」
「大丈夫か?」
「はい」
たびたびフラつく私を心配してくれた部長の手が腰に回る。部長は私の体を支えてくれているだけと頭では理解しているものの、抱き合っているような体勢はとても恥ずかしい。
クッキリとした二重の瞳とスッと通った鼻筋。間近に迫った部長の顔はとても綺麗で、心臓がトクンと跳ね上がる。
普段はなんてことないふた駅の距離が、今日はとても長く感じた。