私の上司はご近所さん
仲良くしてくれている結衣に隠し事はしたくない。
そう考えた私は、結衣に自分の気持ちを聞いてもらうことに決めた。
「結衣、私……好きな人がいるの」
「うん。知ってる。翔ちゃんでしょ?」
「ううん。違う」
「は? えっ? 嘘っ! 百花の好きな人って誰よ!」
結衣は中ジョッキをドンとテーブルに置くと、身を乗り出してくる。予想以上に驚く結衣を前に、恥ずかしさが込み上げてきた。
それでも結衣に好きな人がいることを打ち明けると決めたのは自分だ。
「……部長」
誰にも言えずに心に秘めていた思いを口にした途端、頬が熱く火照り出すのを自覚した。
「えー! 部長って藤岡部長?」
「うん」
「マジで? だって部長には彼女がいるんでしょ?」
「うん。でも好きになっちゃったんだもん」
結衣の言う通り、部長には彼女がいる。それでも私は部長を好きになってしまった。恋は理屈じゃないと思ってしまう。
「わかるよ。百花の気持ち。あんなにかっこいい部長が同じオフィスにいたら、好きにならない方がおかしいよ」
結衣が、しきりにコクコクとうなずく。
たしかに部長は文句なしにかっこいいけれど、私は彼の外見に惚れたのではない。
優しくて、思いやりにあふれていて、頼りがいがあって……。部長の好きなところをあげればキリがない。