私の上司はご近所さん

その思いを結衣に伝えようとしたけれど……。

「でもね……。部長、彼女いるんだよね」

「……うん」

二度も同じことを言う結衣に、うなずくことしかできない。

「思い切って告白してみれば?」

「無理だよ」

「それなら部長のことはスッパリと忘れな」

「……」

結衣はそう言うと、生ビールを一気に飲み干した。あまりにも素気ない結衣の言葉に返す言葉が見つからない。

部長への恋心は忘れるしかないの? あきらめるしかないの? 

片思いの切ない気持ちに共感してもらえなかったことが悔しくて、うつむきながら下唇を噛んだ。すると結衣がポツリとつぶやく。

「私、百花にはつらい思いをしてほしくない」

恋愛経験値が私よりはるかに高い結衣は、片思いのつらさをよく知っている。適当に私を励ますのではなく、忘れることを勧めたのは、彼女なりの心遣いだったのだろう。

「結衣、心配かけてごめんね。それから話を聞いてくれてありがとう」

少しだけ前向きになれたのは、結衣のお蔭。

「百花~! 今日はトコトン飲もう! それで部長よりもっと素敵な人を早く見つけなっ!」

「うん」

今すぐ部長を好きだという気持ちを封印するのは無理だけど、つらくて悲しいときは結衣にまた話を聞いてもらおうと思った。

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