私の上司はご近所さん
「そういえば夏祭りがあるらしいな」
毎年八月の第二土曜日は近くの神社で夏祭りが開催される。さつき通り商店街にも模擬店が並び、賑やかな一日になる。
「はい。そうなんです。よくご存じですね」
「商店街に貼ってあるポスターを見たからな」
部長の言う通り、商店街のあちらこちらに夏祭りのポスターが貼られている。もちろん、ウチの食堂のドアにも。
「あ、そうか。部長? 夏休みは札幌に帰るんですか?」
「いや、今回は帰らない」
ゴールデンウイーク同様、部長は札幌に帰るものと思い込んでいた。もしかしたら夏休みに部長と会えるかもしれないと考えたら、気分が一気に上がる。
「それなら夏祭りの日、ウチに寄ってみてください」
「ん?」
私の突然の誘いに戸惑ったのだろう。部長が首を傾げる。
「当日は店の前で焼きそばを販売するんです」
「へえ、そうなのか」
「はい」
部長に説明した通り、夏祭りには店の厨房で焼きそばを作り、パックに詰めたものを店頭販売する。食堂も同時営業するため当日は結構忙しい。
「それなら顔を出してみようかな」
「はい! 特別にサービスします!」
「それは楽しみだ」
テーブルを挟んで部長とクスクス笑い合った。
さつき通り商店街のおじちゃんとおばちゃんたちが「華やかになる」と言って喜んでくれるため、夏祭りには毎年浴衣を着る。
私の浴衣姿を見たら、部長はなんて言ってくれるのかな……。
期待と不安を胸に抱きながら、食事を続ける部長を熱く見つめた。