私の上司はご近所さん
部長の彼女
順調に業務を終えた八月第二金曜日の午後六時。「お先に失礼します」と挨拶するとオフィスを後にした。
夏季休暇は明日から。同期の結衣は彼氏と海に行くらしいし、後輩の佐藤さんはハワイに行く。それと比べて私はというと、予定があるのは明日の夏祭りだけ。少し虚しい。
それでも夏祭りでは部長に会える!
明日を待ち遠しく思いながら、駅に向かった。
いつもなら家に帰るため駅の自動改札機を通る。けれど今日は改札ではなく、駅直結の商業施設に足を進めた。向かう先は品揃え豊富なところが魅力だと、ネットに紹介されていた浴衣売り場。夏季限定でオープンしているらしい。
五階でエレベーターを下りると、すぐ浴衣売り場にたどり着く。かわいらしいピンク地の浴衣に、個性的なレトロな柄の浴衣。男性浴衣に子供浴衣、帯に下駄と小物まで、たしかに品数が豊富だ。
「いらっしゃいませ」
平日午後六時すぎの浴衣売り場には、私以外の買い物客の姿はない。ディスプレイされている浴衣を見ていると「どのような浴衣をお探しですか?」と店員さんに声をかけられた。
家にはおばあちゃんが一昨年買ってくれた白地にピンクの花柄の浴衣がある。それなのに新たに浴衣を新調しようと思い立ったのは、少し大人びた私を部長に見てほしいから。