私の上司はご近所さん
「あの、落ち着いた感じの浴衣ってありますか?」
「はい。ございますよ。こちらにどうぞ」
「はい」
店員さんの案内に従って店内の奥に進む。
赤地やピンク地、黄色地などといった華やかな浴衣とは対照的に、案内された箇所には黒地に紺地、白地に紫のようなシックな浴衣が並ぶ。
「お客様は肌が白いので黒や紺の浴衣がお似合いになると思いますよ」
店員さんがそう言って選んでくれたのは、黒地に赤いバラ模様の浴衣。バラが咲き乱れている様子はたしかに華やかで綺麗だけど、私が求めているのはこれじゃない。
「ほかにも見ていいですか?」
「はい。もちろん」
陳列された浴衣を見ること数分、ある浴衣に目が釘づけになった。
「あ、これ」
私が手にしたのは、紺地に白と紫の朝顔が描かれている浴衣。店員さんが選んでくれたバラの浴衣のような派手さはないけれど、上品で優雅な雰囲気がひと目で気に入った。
「ご試着されますか?」
「はい」
店員さんの案内で奥の試着室に向かうと、浴衣に腕を通す。一年ぶりの和装に心がドキドキと高鳴る中、簡易的ではあるけれど浴衣の着つけが終わった。
「とてもお似合いですよ」
「ありがとうございます」
お世辞だとわかっていても褒め言葉はうれしい。
私の浴衣姿を見たら、部長も褒めてくれる?
鏡に映し出された自分の姿を見つめながら、部長のことを考えた。