私の上司はご近所さん
ひと目惚れした朝顔の浴衣が入った紙袋を店員さんから受け取る。本当は帯に下駄、それからバッグと髪飾りも浴衣に合わせたものを買いたかったけれど、今回は予算オーバーのため家にあるもので我慢することにした。
「ありがとうございました」
店員さんの挨拶にお辞儀をすると、浴衣売り場を後にする。
浴衣は毎年、おばあちゃんが着つけをしてくれる。髪の毛はアップにしてみようかな。
浴衣を着た自分の姿をイメージして駅の改札に向かっていると、見慣れた後ろ姿が目に飛び込んできた。
スッと伸びた背筋、広い肩幅。颯爽と足を進める姿は間違いなく部長だ。
仕事が終わって、これから家に帰るのかな?
タイミングよく出会えたことをうれしく感じながら、少し先にいる部長のもとに駆け寄った。
「ぶちょ……」
呼びかけた声と駆け寄る足を止めたのは、目にした光景に衝撃を受けたから。
部長は軽く手を上げると、駅の改札の端に立つ女性に向かって走り寄って行く。そして二言三言話すと、お互いの顔を見つめて微笑み合った。
仲睦まじいふたりの様子を見れば、誰だってわかる。あの女性(ひと)が部長の彼女だと……。