私の上司はご近所さん
緩くひとつに束ねた髪型と、袖から覗く白い肌、部長を見上げる大きな瞳。遠目から見ても部長の彼女はとても美人だということがわかった。
部長は彼女の横に置いてあったキャリーバッグを手にすると、慣れた手つきで転がし始める。その姿はとても自然で、普段から彼女の世話を焼いていることが容易に想像できた。
部長と彼女は改札とは反対の方向に歩いて行く。今の時刻は午後七時三十分。ディナーにはちょうどいい時間だ。
もしかしたら私とみなとみらいに行ったときのように、オシャレなレストランで食事をするのかもしれない……。
まだ部長を好きになる前の出来事が、とても懐かしい。
部長が夏季休暇に札幌に帰らなかったのは、彼女が東京に来るから。きっとふたりで東京観光を楽しむつもりなのだろう。
それなのに地元の小さな夏祭りに部長を誘うなんて、私はバカだ……。
買ったばかりの浴衣が入った紙袋の取手をギュッと握りしめると、部長と彼女に背を向ける。
こんなことなら浴衣なんか買うんじゃなかった。
届かない部長への思いを痛感しつつ、駅の自動改札機を通った。