私の上司はご近所さん
再び口もとが緩み出すのを自覚していると、おばあちゃんがとんでもないことを言い出した。
「部長さんに早く見てもらいたいわね」
衝撃的なおばあちゃんの発言を聞き、緩んでいた口もとが引きつり始める。
「お、おばあちゃん、なに言ってるの?」
「隠さなくたっていいのよ。フフフ……」
おばあちゃんが意味ありげに笑う。
もしかしたらおばあちゃんは、私が部長を好きだと感づいている?
身内であるおばあちゃんに、内に秘めた恋心を知られるのは恥ずかしい。
「別になにも隠してないし……」
すぐさま反論したものの、次第に語尾が小さくなり、自分でも説得力に欠けると思った。バツの悪さを感じていると、和室に母親が現れる。
「あら、いいじゃない」
「でしょ」
昨日は私が選んだ浴衣を地味だと言ったくせに……。
心の中に少しだけ反抗心が芽生えたものの、浴衣姿を褒めてくれたことがうれしくて、母親に向かって胸を張った。
「でも、その髪型……」
「……」
浴衣を着ると決めたけれど、どうせ部長は私のことなど眼中にない。だったら、髪型なんて適当でいいや。
そう思った私は肩まで伸びた髪の毛を、黒ゴムでざっくりとひとつに束ねた。私の雑な髪型を見た母親が大きなため息をつく。