私の上司はご近所さん
「よっ!」
ウチに訪ねてきたのは、まさかの翔ちゃんだった。適当な挨拶をしながら片手を軽く上げている。
「翔ちゃん! どうしたの?」
今の時刻は午前九時を過ぎたばかり。用があるときは食堂に顔を出すことが多い翔ちゃんが、こんな時間に家のチャイムを鳴らすのは本当に珍しい。
いったいどんな用があるのだろうと考えながら、翔ちゃんの顔を下から覗き込む。するとすぐにプイッと視線を逸らされてしまった。
「も、もう浴衣着たんだな」
「うん。おばあちゃんに着つけてもらったんだ」
「そうか。あのさ……こ、これ」
私から視線を逸らしたまま、翔ちゃんが水色の袋を差し出してくる。
「なに?」
どことなく落ち着きがない翔ちゃんが気になりつつも、水色の袋を受け取るために手を伸ばした。
「あ、ちょっと待った!」
けれど翔ちゃんの手がすぐに引っ込んでしまう。
いったい、なんなの?
いつもと様子が違う翔ちゃんに戸惑っていると、彼が水色の袋を自ら開けた。中から出てきたのは透明なケースに入った髪飾り。翔ちゃんはそのケースもこじ開けると髪飾りを手に取る。
「これ、俺からのプレゼント。なに色にするか悩んだんだけど、百花にはやっぱりピンクが似合うと思ったんだ」
「……っ!」
袋の中から髪飾りが出てきたことと、一方的に話を進める翔ちゃんに驚き言葉が出てこなかった。