私の上司はご近所さん
今日は私の誕生日でもないし、なにかの記念日でもない。
翔ちゃんが髪飾りをプレゼントしてくれるなんて、どういう風の吹き回し?
「これ、つけてやるから動くなよ」
「あ、うん」
困惑しながらも翔ちゃんの言葉にコクリとうなずくと、髪飾りを握った翔ちゃんの手が私の左耳の後ろに向かってスッと伸びてくる。
屈めた腰に近づく顔。まるでキスされそうなその体勢と近い距離が恥ずかしくて、思わずうつむいてしまった。
Tシャツにジーンズスタイルの翔ちゃんから漂うのは、パンの香ばしい匂い。ついさっきまで、店に出すパンを焼いていたのだろう。
それにしても、翔ちゃんが近い……。
ここは家の玄関の中。ウチの家族がいつ通りがかってもおかしくない。翔ちゃんとイチャついていると勘違いされたら、たまったもんじゃない。
一刻も早く髪飾りがつけ終わることを願う私の気持ちとは裏腹に、左耳の後ろから聞こえてくるガサゴソという音は終わらない。
「翔ちゃん、まだ?」
手間取っている翔ちゃんに声をかけると、彼が体を起こした。
「できた! うん、よく似合ってる」
翔ちゃんは私から足を一歩後退させると体の前で腕を組み、満面の笑みを浮かべた。
今、自分の髪型がどうなっているのか気になって仕方がない。でもここは家の玄関。鏡は置いてない。