私の上司はご近所さん
遠回しすることなく直球を投げつけてくるおばあちゃんに慌てふためいてしまい、少し鎮まった鼓動が再び大きな音を立て始める。
「ちょ、ちょっと、おばあちゃん! なに言ってるの?」
ひょっとして、翔ちゃんとのやり取りをおばあちゃんに聞かれた?
そう思ったけれど、この和室はキッチンとリビングの奥にあり玄関まで距離がある。大声を出さない限り、会話が聞こえるということはないはずだ。
「そう。百花ちゃん、変なこと言ってごめんね」
「ううん」
翔ちゃんがウチに尋ねて来た理由をおばあちゃんにいろいろと聞かれたら、どうやって誤魔化せばいいんだろうと頭を悩ます。けれど意外にもあっさりと引き下がってくれて、ホッと胸をなで下ろした。
再び鏡に視線を向けた私の脳裏に浮かび上がるのは、翔ちゃんの告白の言葉。飾ることなく『俺の彼女になってほしい』と言うなんて、真っ直ぐな翔ちゃんらしいと思った。
返事、どうしよう……。
気持ちが揺れてしまうのは片思いに疲れたから。もうこれ以上、つらくて悲しい思いはしたくない。
「おばあちゃん。そろそろ店の手伝いに行くね」
「はい。お願いね」
「うん」
モヤモヤした気持ちを胸に抱えながら、翔ちゃんからもらった髪飾りを身に着けた自分の姿を鏡でもう一度見ると、食堂に向かった。