私の上司はご近所さん
「焼きそば売らなくちゃ……」
私の両肩にのっている部長の手を振り払うように体をひねる。しかし、そんなことくらいでは、部長はびくともしなかった。
「それなら心配ない。園田さんの代わりに俺の……」
「えっ!?」
部長の言葉を聞いて思い出すのは、彼女の存在。
まさか倒れた私の代わりに、部長の彼女が手伝いを?
髪の長い上品な彼女に焼きそば販売は似合わない。彼女と交代するために部長の言葉を遮ると、さらに体をよじらせた。けれど強い力で両腕を掴まれる。
「園田さん、落ち着くんだ」
「離してっ」
抵抗すればするほど、私の両腕を掴む部長の力が強まっていった。
力では部長に敵わない。気力を失った私が抵抗するのをやめると、部長が私の目線に合わせてしゃがみ込んだ。
「みんな熱中症じゃないかって心配していたぞ。さあ、これを飲むんだ」
部長はそう言うと、ペットボトルのスポーツドリンクを差し出してきた。
今朝、ベッドからなかなか起き上がれなかったのは、部長と彼女のことが気になってしまって一睡もできなかったから。頭が鈍く痛んだのも、意識を失って倒れたのもきっと寝不足のせいだ。だから今さらスポーツドリンクを飲んでも意味はない。
「いりません」
ベッドの上で首を左右に振ると、部長がペットボトルの蓋をカチリと開けた。