私の上司はご近所さん
「俺じゃないからな。苦しそうだからって、お母さんが帯を解いたんだ」
「そ、そうですか」
別に裸を見られたわけじゃないのに慌ててしまったのは、部長の前では常にかわいい姿でいたいから。タオルケットを口もとまで引き寄せると、中途半端な浴衣姿を隠す。
「帯と髪飾りはテーブルの上に置いてある。そろそろ園田さんが目を覚ましたとみんなに知らせてこよう」
「よろしくお願いします」
恥ずかしがる私を見て動揺したのだろうか。部長は視線を逸らしたまま立ち上がると、私に背を向けた。
“髪飾り”という言葉を聞いて思い出すのは、翔ちゃんのこと。
今日の夜八時。きちんと自分の気持ちを翔ちゃんに伝えなくちゃ……。
そう思いつつ、部屋から出て行く部長の背中を見つめた。
おばあちゃんに帯を着つけ直してもらうと、食堂に向かう。するとすぐに、おじいちゃんが声をかけてきた。
「百花ちゃん、大丈夫かい?」
「うん。心配かけてごめんなさい」
迷惑をかけてしまったことを、おじいちゃんと家族のみんなに謝る。
「部長さんと妹さんにきちんとお礼を言うのよ」
「うん」
「それからふたりに、お昼をどうぞって伝えて」
「わかった」