私の上司はご近所さん
「翔ちゃん、どうしてこの場所を指定したの?」
「高校生のとき、百花がここで俺に告白してくれただろ? だから今回は俺がここできちんとケジメをつける番だと思ったんだ」
「……」
私にとってここは、失恋した苦い思い出の場所。ケジメをつけると言われても、どのような返事をすればいいかわからない。黙り込んでいると、翔ちゃんが私との距離を一歩縮めた。
「百花、この場所で改めて言う。俺の彼女になってほしい」
その言葉、九年前に聞きたかったよ……。
そう思ってしまうのは、九年前に私と翔ちゃんが両思いになっていたら、失恋して胸が張り裂けそうに痛むこともなかったし、涙が枯れるまで泣くこともなかったはずだから。
でも今さら、過去は変えられない。
「翔ちゃん、ごめんなさい。私、好きな人がいるの」
翔ちゃんのことは好きだったし、これから先も嫌いになることは絶対にない。けれど今、私の心を満たしているのは部長で、翔ちゃんではない。
頭を下げて謝ると、翔ちゃんが大きなため息をついた。
「百花の好きな人って藤岡さんだろ?」
「……うん」
部長が好きだという事実は、翔ちゃんに一度も話したことはない。
それなのに、どうして私の気持ちわかるの?
不思議に思いながら翔ちゃんを見つめる。