私の上司はご近所さん
歓送迎会で席が離れていたにもかかわらず、私たちが芋焼酎を飲んでいたことを知っているとは驚きだ。
歓送迎会というくだけた場でも、隙を見せない部長を前に恐縮していると、思いもよらない言葉が耳に届いた。
「園田さんはどこに住んでいるんだ?」
「へ?」
唐突に変わった話題に首を傾げながら頭を上げる。
「キミの自宅の住所を聞いているんだ」
「私が住んでいるのはさつき台ですが……」
これってなにかのアンケート?
質問の意図がわからないまま答えると、部長の瞳が丸くなった。
「へえ、そうか」
「……はい」
なにが『へえ』なのか、さっぱりわからない。釈然としないまま部長を見つめていると、革靴を履き終えた彼が階段に向かった。
周りを見回せば、二階に残っているのは私と部長だけ。
みんな、いつの間に……。
焦りながら部長の後を追うと、階段を二段下りたところで彼の足が止まった。
「ほら」
私に手を差し出す部長の姿を一日のうちに二度も見ることになるなんて、ラッキーなのか、アンラッキーなのかよくわからない。けれど、よろけてしまった私を心配してくれている部長を前に、胸がトクンと音を立てるのを自覚した。