私の上司はご近所さん
Story・12
ご近所さん卒業宣言
背後から「あっ!」という声と、ガチャンという派手な音が響き渡る。その声と音に驚いた私は、キッチンカウンターの向こう側に視線を向けた。
「部長! 大丈夫ですか?」
「ああ。少し手が滑った。それよりエビが……。すまない」
ガクリと肩を落とした部長が申し訳なさそうに謝った。床にはボウルとエビが散乱している。
エビとブロッコリー、ゆで卵を合わせたサラダを作るつもりで、部長にエビの殻むきをお願いしたけれど、どうやらうまくいかなかったようだ。
仕事中は隙なく業務をこなしている部長が、簡単な料理の手伝いでミスしてしまうなんて意外だ。
そういえば、歓送迎会の帰りに送ってもらった際に『料理はあまり得意じゃない』と言っていたっけ……。
そのことを思い出した私は、部長のもとに慌てて駆け寄った。
「エビは洗って殻をむけば大丈夫ですから。それよりケガしてませんか?」
部長の手を握ると、ケガした箇所がないか目を凝らす。すると横から大きなため息が聞こえてきた。
「あのね。ボウルを落としただけでケガするわけないでしょ。イチャイチャするのは私が札幌に帰ってからにしてくれない?」