私の上司はご近所さん
あきれ気味に声をかけてきたのは、部長の妹である沙也加さん。夏休みを利用して地元の札幌から東京観光のために上京してきたのだ。
沙也加さんの指摘を聞いた私は、握っていた部長の手を慌てて離した。ちなみに沙也加さんは私と部長がつき合い始めたということを知っている。
「べ、別にイチャイチャしてないだろ」
沙也加さんに反論した部長の耳が、ほんのりと赤みを帯びていることに気づいた。もしかして恋愛のことで、妹の沙也加さんにからかわれるのは照れくさいのかもしれない。
「あ、そうですか。それよりお兄ちゃんはエビを拾ったら床を拭いて!」
「はい」
逆らわずに素直に返事をする部長がおもしろい。ふたりの様子をクスクスと笑っていると、沙也加さんがジロリと私を見つめた。
「それから百花ちゃん。パスタ茹ですぎじゃない?」
「あっ!」
慌ててキッチンに戻ると、IHヒーターの電源を切った。
私より四つ年上で美人なのに気さくな沙也加さんに、東京を案内してほしいとお願いされたのは日曜日のこと。夏休みの予定がなにもなかった私は即、了解した。