私の上司はご近所さん
三人で「いただきます」と手を合わせて挨拶すると、テーブルに並んだ料理に口をつける。
「園田さん。このパスタ、とてもおいしいよ」
冷製パスタをひと口頬張った部長が、ニコリと微笑む。
「部長が殻をむいてくれたエビもプリプリでとてもおいしいです」
エビの殻むきに苦戦していた部長を労うように声をかけると、ふたりでクスクスと笑い合った。
以前、部長に連れて行ってもらった横浜みなとみらいのフレンチレストランのような豪華な食事ではないけれど、大好きな人と一緒に作った料理は世界一おいしい。幸せなひとときに頬を緩ませていると、横から沙也加さんの声が聞こえてきた。
「あのー。パスタの味つけをしたのも、エビを茹でたのも、この私なんですけどー」
あっ、いけない。沙也加さんの存在を忘れた!
「沙也加さんって料理が上手なんですね!」
少しあきれ気味の沙也加さんを慌ててフォローした。
「実は今、お料理教室に通っているの」
「へえ、そうなんですか」
「うん。私、来年結婚するからさ」
沙也加さんはパスタをフォークにくるくると巻きつけると、唐突に結婚宣言をした。
彼女が上京してから、彼氏について話題になったことは一度もない。