私の上司はご近所さん
「い、いえ。結構です」
思わずときめいてしまったことを誤魔化すように首を左右に振って断ると、部長の口角がわずかに上がるのが見えた。
「酔っているくせに。顔が真っ赤だぞ」
「……っ!」
部下を心配する優しい上司だと思ったのも束の間、私をからかっておもしろがる部長が腹立たしい。しかし酔っているのは事実。言い返す言葉が見つからないことが悔しかった。
プウと頬を膨らませつつ、慎重に階段を下りる。私が階段を一段下りると、部長も足を一歩進めた。
「転ぶなよ」
「大丈夫です」
なんだかんだ言っても、やっぱり部長は私を心配してくれている。部長の気遣いをうれしく思っていた矢先、信じられない言葉が耳に届いた。
「転んだら大変なことになるからな。俺が……」
たしかに私が階段から転げ落ちたら部長も巻き込んでしまい、大惨事になってしまうはずだ。
でもさすがに『俺が』の最後のひと言は余計じゃない?
「絶対に転びませんからっ!」
優しいのか意地悪なのか、よくわからない部長に対して声を荒らげた。