私の上司はご近所さん
「藤岡部長って三十八歳でしょ。しかもイケメン。とっくに結婚していてもおかしくないのに、どうして独身なんだと思う?」
結衣が怪訝(けげん)な表情を浮かべつつ、私に尋ねてきた。
部長の個人情報をすでに把握している結衣に驚きながら席に着つくと「いただきます」と両手を合わせる。
「結婚相手の理想が高すぎる、とか?」
凛々しい眉にガラスのように澄んだ二重の瞳が特徴的で、癖のないサラサラの黒髪はナチュラルに短く整えられていて清潔感が漂っている。しかも高身長。
そんな芸能人顔負けのかっこいい部長に似合うのは、美人でスタイルがよくて上品な女性。完璧な女性を求めているうちに、部長は婚期を逃してしまったのではないか。
ご飯を口に運びながら部長が独身である理由を勝手に勘ぐった。
「私は、藤岡部長の性癖に問題アリなんじゃないかと思うんだけどな」
「ブッハッ!」
結衣の突拍子もない発言を聞き、口から白米が飛び出す。すぐ近くのテーブルには男性社員もいるというのに、まるでお酒が入った女子トークみたいな内容に焦ってしまった。
「ちょっと百花、吹き出さないでよ」
「だって結衣が変なことを言うから!」
バッグからティッシュを取り出すと、テーブルに散らばった白米と口もとを拭った。