私の上司はご近所さん
無事に階段を下りると、部長とともに居酒屋の外に出る。すると広報部のメンバーが、次はカラオケに行こうと盛り上がっていた。そんな中、主任とパチリと視線が合う。
「藤岡くんと園田さんもカラオケに行くわよね?」
私たちに気づいた主任が二次会に誘ってくれた。でも流行の曲は知らないしオンチだと自覚している私は、カラオケが苦手。できれば真っ直ぐ家に帰りたいと思った。しかし上司である主任に誘われたら断りにくい。
仕方ない。少しだけ顔を出したらすぐに帰ろう。
そう思っていると、部長が私よりも早く口を開いた。
「この酔っ払いを家まで送るから二次会はパスだ。悪いな」
へえ、部長はカラオケに行かないんだ。だったら私もどさくさに紛れて二次会をパスしようかな。
そんなことをコッソリ考えていると、部長に頭をコツンと突かれた。
そこでようやく気づく。えっ? 『酔っ払い』って私のこと?と……。
「あら、本当だ。園田さん、顔が真っ赤よ。大丈夫?」
私の顔を覗き込んできた主任が、心配げな声をあげる。
たしかに今日は芋焼酎を三杯も飲んだあげく、部長に支えてもらった。けれど意識はしっかりしているし、足もとがフラついてしまったのは慣れない八センチヒールのせいだ。
「あ、はい。大丈夫です」
胸を張って主任に答えた矢先、部長がすかさず口を挟んできた。
「大丈夫なものか。また尻もちをついたらどうするんだ。さあ、行くぞ」
「えっ? あっ!」
部長は私の手首を掴むとツカツカと歩き始める。
初めて知った部長の少し強引な言動に戸惑っていると、背後から「気をつけてね!」という主任の声が聞こえてきた。
「お先に失礼します!」と声をあげると、主任が大きく手を振ってくれた。