私の上司はご近所さん
Story・4
部長はご近所さん
部長に手を引かれてたどり着いたのは、居酒屋から数メートル離れた大通り。タイミングよく通りがかった空車のタクシーに乗り込むと、部長が「さつき台まで」と運転手さんに行き先を告げた。
タクシーで送ってもらえるのは助かる。でも部長の家が私の家と反対方向だったら迷惑をかけてしまう。
「あの、部長はどちらにお住まいなんですか?」
タクシーの後部座席のシートに深くもたれかかった部長に尋ねる。
「実は俺もさつき台に住んでいる」
「えっ? そうなんですか!」
まさかの偶然に驚き、大きな声をあげてしまった。バックミラー越しに運転手さんと目が合ってしまい、慌てて手で口を押さえる。
「ああ。園田さんはさつき台のどの辺りに住んでいるんだ?」
「私はさつき通り商店街に住んでいます」
少しだけ声のトーンを落として答えると、部長が首を傾げた。
「商店街?」
「はい。私の家、さつき通り商店街で食堂を営んでいるんです」
さつき通り商店街はさつき台駅から徒歩十五分の距離にある、小さな商店街。個人商店が二十店舗ほど集まったさつき通り商店街で私は生まれて育った。