私の上司はご近所さん
本社勤務も今日で五日目。慣れない業務に、新たなメンバーとのつき合い。肉体疲労はもちろん、気疲れもピークに達しているはずだ。
「園田さんを利用してしまって悪かったな」
歓送迎会が終わってフラつく私の住所を聞いたのは、二次会をパスするため?
酔った部下を送るという口実をすぐに思い立った部長に感心してしまう。
「いいえ。カラオケは苦手だから、私も二次会をパスできてよかったです」
本音を口にすると、眉尻を下げて謝っていた部長の瞳がパチリと開いた。
「どうしてカラオケが苦手なんだ?」
「オンチなんです」
私が歌うとみんなが笑う。だからカラオケに行かなければならないときは、マラカスとタンバリンを全力で鳴らす係に徹する。
カラオケが苦手な理由を正直に答えると、部長がクスクスと笑い出した。
「へえ、それはいいことを聞いた。園田さんの歌声を聞ける日がくるのが楽しみだ」
「もう……」
意地悪なことを言う部長に腹が立ったのは、ほんの一瞬。飾りげのない部長の笑顔が見られたことがうれしくて、つられるように笑い声をあげた。