私の上司はご近所さん
「ねえ、百花。藤岡部長って彼女いると思う?」
「そりゃ、彼女くらいいるでしょ」
新部長の着任を不安がっていたくせに、彼が広報部のオフィスに姿を現した瞬間、女子社員たちがあちらこちらで黄色い歓声をあげていたことを思い出す。
見た目がいい部長は、札幌支社でもモテモテだったはずだ。だから部長に彼女がいなわけがない。私はそう思っている。
「でも藤岡部長って入社してからずっと札幌支社勤務だったんだよ。彼女がいるとしても今は遠距離恋愛だし、すぐに別れそうじゃない?」
「そうかな?」
部長は異動してきたばかり。同じ部署の私でさえ彼のことはまだなにもわからない。それなのに結衣はすでに部長に迫る気満々。積極的な結衣にあきれてしまう。
「なんか反応薄くない? もしかして百花も藤岡部長狙いとか?」
「まさか!」
結衣の問いかけに、慌てて首を左右に振った。
入社三年目となり、責任のある仕事を任されるようになってきたばかり。今、私は恋愛とか結婚とかに興味はない。
「私さぁ、たとえ藤岡部長の性癖に問題があったとしても、彼となら恋愛を飛び越えて結婚しちゃってもいいかなって思うんだ」
「……」
斜め四十五度を見上げる結衣の瞳は、キラキラなハートマークになっている。
そうだった。結衣は面食いだったっけ……。