私の上司はご近所さん
* * *
異動してきた部長が近所に住んでいることと、お昼過ぎにウチに来ることを家族に伝えた。
父親は「部長さんにお会いするなら、スーツに着替えた方がいいか?」と的外れなことを言い出し、母親は頬を赤く染めながら「その部長さんはイケメンなの?」と私にしつこく尋ねてきた。祖母は「彼氏を紹介してくれるのかい?」となにやら勘違いしているし、祖父は「ひ孫の顔が早く見たいねぇ」と突拍子もないことを口走る。
「あのね、昨日部長にタクシーで送ってもらったお礼に、お昼をごちそうするだけだから。普通でいいからね、いつも通り普通でっ!」
朝の食卓で騒ぎ立てる家族に向かって大声を張りあげると、一同がようやく静かになった。しかし「百花が家に男を連れてくるなんて、初めてだな」とお兄ちゃんがポツリとつぶやいたせいで、またも家族が騒ぎ出す。
もう、余計なこと言って!
なに食わぬ顔をして朝食の納豆をかき混ぜるお兄ちゃんを、恨めしげに見つめた。
* * *