私の上司はご近所さん
集まってきた家族を無視するわけにはいかない。渋々ではあったけれど、家族を部長に紹介することにした。
「父と母。そして祖父母と兄です」
「いつも娘がお世話になっております」
調理白衣姿の父親が部長に向かって頭を下げると、家族もそれにならう。
「藤岡と申します。こちらこそ、お嬢さんにはお世話になっております」
昨日、翔ちゃんに自己紹介をしたときと同様に、部長は深々と頭を下げた。
「部長さん、百花は……」
父親が部長に向かって話かける。
「部長、こちらにどうぞ」
しかし私はわざと大きな声を出すと、それを阻止した。
父親の言葉を遮ったのは、職場での私の様子を部長に尋ねられるのが嫌だったから。今日、部長がウチに来たのは家庭訪問じゃないし、部長は担任でもない。クイーンズショコラに入社して今年で三年目。完璧に仕事をこなしているとは言えないものの、私は毎日業務に励んでいる。もっと娘を信頼してほしいものだ。
「ありがとう」
お礼を言う部長を食堂の一番奥の席に案内する。洒落っ気のないパイプ椅子に腰を下ろした部長の姿は、古びた食堂にはミスマッチでなんだかおかしかった。