私の上司はご近所さん

「部長、なににしますか?」

部長の前にお水を出す。

「そうだな……あんなにメニューがあると悩むな」

部長は食堂の壁に貼ってある縦書きのメニュー表を見ると、顎に手をあてた。

「人気があるのは豚肉の生姜焼き定食と野菜炒め定食、あとはサバの味噌煮定食です」

すりおろし生姜をたっぷりと使用した豚肉の生姜焼き定食は、ウチのナンバーワンメニュー。若い男性に人気がある定食だ。

野菜炒め定食はバランスがいい食事を取りたい、サバの味噌煮定食はおふくろの味を思い出す、そういった理由でそれぞれ評判がいい。

「そうか。最近野菜不足だから野菜炒め定食がいいかな。でもサバの味噌煮定食も食べたし……」

眉間にシワを寄せて悩んでいる部長の表情は、重要案件の資料に目を通しているようにも見える。

真剣に悩んでいる部長の姿はかわいらしくて、小さな笑いが込み上げてきた。

「それじゃあ、両方にしましょうか」

迷っている部長に救いの手を差し伸べる。

「両方? そんなにたくさんは食べられないな」

「大丈夫です。野菜炒めはハーフのおかずのみってことにしますから」

「へえ、そんな注文の仕方もできるのか?」

「はい。お任せください」

< 35 / 200 >

この作品をシェア

pagetop