私の上司はご近所さん

チェーン店とは違い、融通が利くのがウチの特徴。厨房に部長のオーダーを伝えると店の引き戸がガラガラと開いた。

「いらっしゃいませ」

来店したのは、さつき通り商店街で花屋を営んでいる谷口のおばちゃん。

「あら、百花ちゃん。今日は手伝い? 偉いね。はい、これご褒美」

小さい頃から用事がないときは食堂を手伝うのがあたり前で、今でもそれは続いている。そんな私に谷口のおばちゃんはいつも『偉いね』と言ってアメをくれるのだ。

谷口のおばちゃんからもらったアメをエプロンのポケットに入れるとお水を出す。

「ありがとう。おばちゃん、注文はいつものでいい?」

「うん。お願い」

「はい」

『いつもの』とは親子丼の小盛りのこと。ウチの普通盛りだと谷口のおばちゃんには量が多いそうだ。オーダーを書いた伝票を厨房に渡す。

そうこうしていると部長のサバ味噌煮定食ができあがった。トレイにのった定食を部長が待つテーブルまで運ぶ。

「部長、お待たせしました」

「ありがとう。これはおいしそうだ。いただきます」

「はい、どうぞ」

部長は両手を合わせて挨拶をする。そして味噌汁とサバの味噌煮に手をつけた。

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