私の上司はご近所さん

「お母さん! 部長に変なこと聞かないでよ!」

部長の前だとわかっていても、高ぶった感情を抑えることができない。母親に向かって声を荒らげた。

「だって、部長さんとお話する機会なんて滅多にないから」

「そうだけど恥ずかしいじゃない。やめてよ……」

父親も母親もそして谷口のおばちゃんも、いつまで経っても私を子供扱いする。そのことがなにより悔しい。

忙しい両親の気を引きたくて、ワガママばかり言っていた幼い頃の私はもういない。いい加減、私を一人前の大人として認めてくれてもいいのに……。

下唇を噛んで母親に文句を言いたい気持ちをグッと堪える。すると部長が手にしていた箸を置くのが視界に入った。

「私たち広報部の仕事はクイーンズショコラの商品をPRするという仕事です。社外の人と接する機会が多いですが、お嬢さんは明るくて社交的な性格のようなので広報の業務に向いていると思います」

部長は母親を真っ直ぐに見据えたまま、迷うことなくそう言い切った。

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