私の上司はご近所さん
不特定多数のお客さんを相手にする両親の姿を見て育ったせいか、たしかに私は人見知りをしない。もちろん取引先の相手と会うときは緊張するけれど、笑顔が引きつるという経験はしたことないし、会話が弾まなかったと落ち込んだこともない。
異動してきたばかりだというのに、部下の様子をよく見ている部長に驚いてしまった。
「まあ、ありがとうございます」
母親が深々と頭を下げた。
部長が私を褒めるのは母親を安心させるため。そうわかっていても、口もとが勝手にニヤけてしまう。
「それにしてもこのサバの味噌煮、とてもおいしいです」
再び箸を手にした部長が爽やかな笑みを浮かべる。
「ありがとうございます。部長さん、ご飯のお代わりいかがですか?」
「じゃあ、お願いします」
「はい。今お持ちしますね」
母親が足取りも軽やかに厨房へと向かった。
仕事の話から、さりげなく料理の話に話題を逸らしてくれた部長の気遣いがうれしい。
「部長、ありがとうございます」
「ん? なにが?」
「なにがって……私のこととウチの料理のことを褒めてくれて」
ペコリと頭を下げると、部長がクスッと小さく笑った。
「俺は本当のことしか言ってないけどな」
目尻を下げて微笑む部長の表情はとても優しげで、思わず頬が火照った。